2015年1月7日水曜日

パニエの奥


貴族達が夜ごと愉しむリッチモンドの舞踏会。
その貴族達が身につけるパニエやドレスのかかったシテンダーの奥の部屋、
前室の床から一段上がった板の間に、
ここ最近の私は、古い相棒と二人でいる。
この劇団でいわゆるJr.1と呼ばれる二人だ。
3面に鏡の貼られたいわゆるフィッティングルームに、
折り畳める長机を持ち込み、
タオルや手ぬぐいを敷いた上にメイク道具などを置き、
即席の鏡前としてる。
長年付き添った夫婦のような我々には、
日々、特段の会話もなく、干渉もなく、
お互いがお互いで心地よい距離を保ちつつ、
スケジュールがどうだとか、
今日は同期が観に来るとか、
同期は観にきたくせに楽屋に挨拶にこないとか、
隣の部屋で座を占める、
このところ数少なくなった先輩役者達のこぼれ話を聞いたりとか、
メイクルーム&ドレッシングルームと化した前室に訪れる役者達の、
なんでもない日々の会話などを聞いたりしている。
最近太ったとか、
ドレスが入らなくなってきたとか、
ぎゅうぎゅうにドレスを締め付ける音とか、
その締め付けに、たまらず漏れ出す喘ぎ声とか、
かとおもうと、次の瞬間、
雷にうたれたように相棒は走り出し、
白いドレスを振り乱して舞台袖を走り抜け、
あっというまにモニター越しからハビシャム様の台詞を聞くこともあった。
これが世に言う「あやうく出トチしそうになった」瞬間の光景だ。
まぁ、なにごともなく公演を続けられれば良いのかもしれないが、
日々色々なことがあるのが人生なわけで、
そんな人生をそれぞれ抱えながら、
与えられた役を日々演じているのがこの劇団の役者であって、
そんなこんなを、
このパニエの奥の楽屋から覗いている今日この頃なのだ。
さぁ、明日は何がおきるのか
このパニエの奥の楽屋から、
覗きうる限り覗いてみたい。ね





















及川健