2014年12月26日金曜日

職人達


時は二週間ほど遡る。
その日も試行錯誤の稽古が終わり、人気もなくなった深夜のこと…

コツコツコツコツ…

天井を越えて聴こえてくるそのハンマーの音に、私は安心感を覚えた。

地下室に置かれた机に一人。
目の前には作りかけのランタンが眩くゆらゆらと光っている…
いや、そんな訳はない。
これは私を安らぎの世界へ連れていこうとする脳の誘惑だ。

時計の針は午前1時を回っている。昨日は殆ど寝ていないし、今朝は早かった。

「もう十分じゃないか」
私は心の中で呟いた。
ここで適当に作業を終わらせる人もいるのだろう。
しかし、私にはそれが出来ない。
どうしても出来ないのだ。
私はこのランタンの装飾に物足りなさを感じている。
「もう一枚…この角度で…」
それは、かっぱえびせんのキャッチフレーズのようにやめられないし、とまらない。
凝り性。幸か不幸か身に付けてきた私の性。ただそれだけの問題なのだ。

ふと、コツコツ音が鳴りやんだ。
先程までの安心感は消えてなくなり、代わりにじわじわとした不安感が私に襲いかかってきた。

階段を降りてくる足音。
私の指先は落ち着きを失う。
ハンマーの男は私の前に立ち、吐き出すように、

「一休みしようぜ」

と、一言告げた。

私は大きく息を吐いて、
「ああ」
と返した。

藤波瞬平