職人達
時は二週間ほど遡る。
その日も試行錯誤の稽古が終わり、人気もなくなった深夜のこと…
コツコツコツコツ…
天井を越えて聴こえてくるそのハンマーの音に、私は安心感を覚えた。
地下室に置かれた机に一人。
目の前には作りかけのランタンが眩くゆらゆらと光っている…
いや、そんな訳はない。
これは私を安らぎの世界へ連れていこうとする脳の誘惑だ。
時計の針は午前1時を回っている。昨日は殆ど寝ていないし、今朝は早かった。
「もう十分じゃないか」
私は心の中で呟いた。
ここで適当に作業を終わらせる人もいるのだろう。
しかし、私にはそれが出来ない。
どうしても出来ないのだ。
私はこのランタンの装飾に物足りなさを感じている。
「もう一枚…この角度で…」
それは、かっぱえびせんのキャッチフレーズのようにやめられないし、とまらない。
凝り性。幸か不幸か身に付けてきた私の性。ただそれだけの問題なのだ。
ふと、コツコツ音が鳴りやんだ。
先程までの安心感は消えてなくなり、代わりにじわじわとした不安感が私に襲いかかってきた。
階段を降りてくる足音。
私の指先は落ち着きを失う。
ハンマーの男は私の前に立ち、吐き出すように、
「一休みしようぜ」
と、一言告げた。
私は大きく息を吐いて、
「ああ」
と返した。
藤波瞬平
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